68町丁目を「供給」「市場から消える速さ」「価格の通りやすさ」「偏り」で比べてみた
はじめに
こんにちは。春日です。
前回のコラムは、文京区全体の中古マンション市場がこの数年でどう動いてきたかを整理しました。ただ、実務でお客様と話していると出てくるのはもっと具体的な相談です。
「どのエリアが人気ですか」
「この辺りはどのくらいで売れますか」
こうした問いに対して、区全体の平均だけでは答えになりません。
「小石川」と言っても一丁目から五丁目まであるし、出物の多さも、市場から消える速さも違うからです。
そこで今回は、文京区専門のデータベース「AND LENS」の実データを使って、文京区を町丁目単位で整理しました。
もちろん、文京区は狭いエリアでブランドマンションの影響も大きいため、マンション棟別や小学校学区別で見ればまた違う景色が見えてきます。
今回はその手前の整理として、町丁目ごとの傾向に絞って分析しました。
今回、注目したのは次の4つです。
①供給:物件が出やすいのはどこか
②スピード:出た物件がどのくらいの速さで市場から消えるのか
③値付けの余地:相場より高めに出しても売れるかどうか
④偏り:その数字は町の傾向なのか、特定マンション1棟の影響なのか
先に結論をお伝えします。
文京区では、出物が多い町丁目と、物件が早く動く町丁目と、高めの値付けでも売れる町丁目は一致しません。さらに、数字だけ見ると動きが早そうに見えても、実際には特定マンション1棟の影響が大きいケースがあります。
そのため、町名が同じだからといって一括りにすると、見誤る可能性があります。最終的には物件単位で判断するのが基本ですが、その前に町の大まかな性格を知っておくと、見え方が変わります。
今回の分析条件
本記事では、文京区の実需向け住戸の中心帯を見るため、次の条件で集計しています。
対象エリア:文京区68町丁目
専有面積:50㎡以上(オーナーチェンジ除く)
築年数:40年以内(売出時点)
対象期間:2022年1月〜2026年4月(52ヶ月)
対象件数:2,424件
対象レコード:市場から消えた物件(成約・掲載終了・売りやめを含む)
※価格分析では成約価格を優先し、欠損時は価格改定後の最終価格、または売出価格を補完値として使用します。
▼文京区マップ(68町丁目の位置を確認するには?)
本記事では町丁目が頻繁に登場します。位置関係がわかりにくい場合は、AND LENS エリアマップで確認できます。坪単価・売出件数の切り替え、駅名・小学校区の表示にも対応しています。

▼用語の定義
終了件数:成約+掲載終了+売りやめ
終了日数:売出日から掲載終了までの日数
90日以内終了率:90日以内に市場から消えた割合
成約日数・成約90日率:成約データをもとに算出した参考値
最大棟シェア:その町丁目の全件数のうち、最も件数が多い1棟が占める割合(例:終了件数20件の町で、1棟が10件なら50%。高いほど1棟依存)
▼町丁目の採用基準
全68町丁目を集計した上で、本記事で主に扱うのは、以下を満たした町丁目です。
終了件数:15件以上
ユニーク建物数:3棟以上
この基準を満たしたのは54町丁目でした。残り14町丁目は、件数不足または建物数不足のため参考扱いにしています。
なお、今回の条件でデータが0件だったのは小日向三丁目のみでした。
ここでユニーク建物数の基準を3棟に置いたのは、町丁目単位の分析で母数を確保しつつ、その代わりに最大棟シェアで偏りを別管理するためです。
町丁目分析では、建物数の基準を厳しくしすぎると、実際に市場がある町まで落ちてしまいます。一方で、緩めるだけでは1棟依存の数字が混ざる。
今回はその両方を避けるため、採用基準と偏りの注記を分けて管理しました。
また、本記事中の「出やすい/出にくい」「速い/遅い」は、採用54町丁目の中央値を境界にしています。
▼指標と読み方
月平均終了件数の中央値:0.74件/月
(その町丁目で、月に約0.7件のペースで物件が市場から消える)
→ 0.74件より多ければ「文京区内では供給が多い」、少なければ「供給が少ない」
終了日数の中央値:73.5日
(売出から約2.5か月で市場から消える)
→ 73.5日より短ければ「消えるのが速い」、長ければ「消えるのが遅い」
いずれも文京区54町丁目の中央値を基準にした、相対的な見方です。
▼文京区の町丁目を3つのタイプに分けてみる
分析に入る前に、ざっくりとした全体像を先に見せます。 供給(出物の多さ)とスピード(市場から消える速さ)の2軸で 文京区の町丁目を分けると、大きく3つのタイプに分かれます。
1.物件も出て、比較的早く市場から消える町
たとえば 本駒込一丁目・小石川二丁目・本郷一丁目・本郷三丁目・小石川五丁目などです。このタイプは、供給量があり、終了日数も比較的短く、特定マンションへの偏りも小さい。つまり、町丁目の市場として機能していると読みやすい町です。
2.物件は出るが、市場から消えるまでに時間がかかる町
代表例は 小石川三丁目・千石二丁目・音羽一丁目・千駄木四丁目・白山二丁目です。このタイプは、売り物件は出る一方で、市場から消えるまでに時間がかかる。一言でいえば、供給はあるが、選別も起きやすい町です。
3.そもそも出物は少ないが、出ると比較的早く市場から消える町
たとえば 向丘一丁目・本郷二丁目・本郷六丁目・本駒込六丁目 などです。
このタイプは、供給は薄いが、出た物件は早めに消えやすい。ただし、件数が少ない分、特定マンション1棟の動きに数字が引っ張られやすい点は差し引いて見てください。
今回のポイントは、「どの町が強いか」ではなく、「その町ではどういう売れ方をするか」を見ることにあります。
「物件がよく出る町」と「決まりやすい町」は違う
物件を探している方の中には、「よく物件が出る町は、市場も活発なのだろう」と考える方が少なくありません。
でも、今回の集計では、これは必ずしも当てはまらないことがわかります。
▼物件が出やすい町
まず、月平均の終了件数が多い代表例を見ると、次のようになります。
※ 終了件数=市場に出た後、成約・取り下げ等で消えた件数。52か月間で何件出て消えたかの総数です。

小石川三丁目、小石川一丁目、音羽一丁目あたりは、待っていれば比較的出物が出やすい町と言えます。
▼市場から早く消える町
次に、終了日数が短い代表例を見ると、顔ぶれはかなり変わります。

この2つの表を見ると、「供給が多い町」と「市場から早く消える町」は一致していないことがわかります。
たとえば 小石川三丁目 は、月平均2.08件と今回の集計で最も出やすい町のひとつですが、終了日数中央値は104.5日。つまり、よく出るが、早く消えるわけではない。
一方で 本駒込一丁目は違います。
供給量が多いにもかかわらず、掲載終了までの日数も短い。しかも22棟に分散し、最大棟シェアも9%と低い。これは、特定の大型マンションの影響ではなく、町として市場が動いていると読みやすいケースです。
▼出やすいが、消えにくい町
この違いがわかりやすい代表例がこちらです。

これらの町は、売り物件は比較的出るのに、市場から消えるまでに時間がかかる。供給が厚いぶん、買い手の比較も起きやすく、価格や条件による選別が起きやすい町と見られます。
▼出にくいが、消えやすい町
逆に、次の町は供給量こそ多くないものの、出た物件は比較的早く市場から消えています。

こうした町は、供給の薄さに対して需要が一定あると読めます。ただし件数自体は多くないため、「町の一般傾向」と言い切るより、供給不足気味の町と見るくらいが妥当です。
なお、向丘一丁目(一部)と本郷六丁目はいずれも誠之小学校区にあたります。文京区では学区を重視して物件を探す層が一定数おり、この需要が終了スピードの速さに影響している可能性があります。
特に本郷六丁目は、掲載終了スピードだけ見ると良く見える一方、特定マンションへの偏りが大きいため、町全体の性格として言い切るには注意が必要です。
「高い町」と「相場で売れる町」も違う
一般的に、単価が高い町 = 強い町 = 高めに出しても売れる町と思われがちですが、今回の集計でそう単純ではないことがわかります。
▼町ごとの価格水準
町プレミアムが×1.10以上の町丁目は14あり、最も高かったのは湯島二丁目 196万円/㎡(×1.39)。最も安い千駄木四丁目 107万円/㎡(×0.76)とは1.8倍の開きがあります。同じ文京区でも、町丁目によって価格水準はかなり違います。

「相場成約率」で見ると景色が変わる
今回見たかったのは、単価の高低そのものではなく、その町の相場付近で出した物件が実際に動くかどうかです。
そこで 相場成約率 という指標を使います。
相場成約率 = 町の㎡単価中央値の+5%以内で売り出した物件のうち、90日以内に市場から消えた割合
相場成約率70%以上は8町丁目、45%以下は9町丁目ありました。

高い町=売れやすい町ではない
2つの表を見ると、価格水準と相場成約率が連動していないことが見えてきます。
湯島二丁目は㎡単価196万円(×1.39)で区内最高だが、相場成約率は33%で最低グループ。相場どおりに出しても3件に1件しか90日以内に消えない。「高い町」ではあるが値付けが高ければ売れやすい町とは言えない。
逆に、関口一丁目(×1.18・166万円)は高単価でありながら相場成約率74%終了69件と母集団も十分で、相場付近で出せば吸収される需要がある。本郷四丁目(×1.18・167万円)も71%で同じ傾向。
一方、音羽一丁目は×0.83と安い側だが、相場成約率は40%にとどまる。終了85件と母集団も多い。安い町だから通りやすいわけでもない。
逆に、㎡単価がそこまで高くない町でも、相場の範囲内で出していれば吸収されやすいケースもあります。売りやすさを左右するのは、「高い町かどうか」ではなく、その町の相場に対して値付けがどこにあるかです。
町の数字に見えて、実は「1棟の数字」のことがある
今回の分析で、個人的に一番大事だと思ったのはここです。
町丁目データは便利ですが、件数だけを見ると、実際には1棟の大規模マンションの動きが町全体のように見えてしまうことがあります。
▼最大棟シェアが35%を超えた町

たとえば 関口三丁目の最大棟シェアは68%
3棟のうち1棟が全体の大半を占めており、これは実質的に町の市場というより1棟の市場です。
水道一丁目 も同様で、終了件数だけ見ると供給が厚い町に見えますが、最大棟シェアは60%
件数の多さをそのまま「町の強さ」と読むのは早計です。
逆に、本駒込一丁目・小石川二丁目・小石川三丁目・本郷三丁目・千駄木二丁目のように、建物数が多く、最大棟シェアも低い町は、町丁目の市場傾向を比較的そのまま読みやすい。
町丁目分析を実務で使うなら、件数だけでなく、
「それは町の数字か、1棟の数字か」を分けて読む必要があります。
▼売出件数が多かったマンション TOP20
参考として、52か月間で売出件数が多かった建物の上位20棟を紹介します。 総戸数が大きいマンションほど売出が多いのは自然ですが、件数の偏りを見ると、先ほどの「町の数字か、1棟の数字か」がより具体的にわかります。

1位のフォリアージュ(水道一丁目・187戸)は34件。水道一丁目の終了57件のうち60%がこの1棟です。パークコート文京小石川ザ タワーとアトラスタワー小石川はいずれも小石川一丁目で、2棟だけで66件。小石川一丁目の終了106件の6割超を占めます。
売主・買主は、このデータをどう使えばいいか
今回の分析を、売却・購入それぞれの立場で見るとこうなります。
▼売主側の見方
売るときに大事なのは、その町が高い町かどうかより、どんな売れ方をする町かです。
⚫︎本駒込一丁目・小石川二丁目・本郷三丁目・本郷一丁目
→ 供給がありつつ、比較的早く市場から消える。
→ 相場線の中で出せば、初動を作りやすい。
⚫︎小石川三丁目・千石二丁目・音羽一丁目・白山二丁目
→ 供給はあるが、消化には時間がかかる。
→ 出物が多い=需要も多い、とは限らないため、初期価格の精度が重要。
⚫︎湯島二丁目・白山五丁目
→ 価格水準や町の印象だけで強気に出すと長期化しやすい。
→ 相場からの上振れ幅を慎重に見るべき。
▼買主側の見方
買主側から見ると、待てば出る町と、出たら早く消える町を分けて考える必要があります。
⚫︎小石川三丁目・音羽一丁目・千石二丁目
→ 一定の供給があるので、比較対象は出やすい。
⚫︎向丘一丁目・本郷二丁目・本郷六丁目・本駒込六丁目
→ そもそも出物が少ない。条件に合う物件が出たときは優先順位を上げる必要がある。
⚫︎特定マンションへの偏りが大きい町
→ 町全体の傾向として見ず、マンション単位で判断した方がよい。
つまり、「どの町が強いか」ではなく、「その町ではどういう売れ方をするか」 を知ることが重要です。
今回の分析で見えた文京区の町丁目ごとの特徴
今回のデータをまとめると、文京区の中古マンション市場は次のように整理できます。
① 文京区は一つの市場ではない
小石川一丁目と千駄木四丁目では、価格水準も流動性もかなり違います。「文京区平均」だけでは、売る・買うの判断には使いにくい。
② 供給量と流動性は分けて見るべき
物件が多く出る町が、必ずしも早く決まるわけではありません。むしろ供給が厚い町ほど、比較や選別が起きやすいこともある。
③ 高単価と価格受容性は別物
高い町でも強気すぎれば止まるし、安い町でも相場並みで出しても消化が遅いことがあります。見るべきは単価の高い・安いだけではなく、その町の相場に対してどう値付けしたかです。
④ 町丁目分析は、偏りを見て初めて使える
件数だけを見ると、1棟の大型マンションが町全体の数字を引っ張ってしまう。町別分析を判断材料にするなら、何棟のデータで構成されているか、特定の1棟がどれだけ占めているかの確認は欠かせません。
まとめ
文京区の中古マンション市場を町丁目で見ると、 「物件がよく出る町」「市場から速く消える町」「価格が通りやすい町」は それぞれ一致しないことがわかりました。
これは言い換えると、「場所がいいから売れる」「高い町だから強い」といった見方だけでは足りないということです。
実際には、
・供給が厚い町
・供給は薄いが出ると早い町
・単価は高いが価格受容性は強くない町
・数字が良く見えても、実は1棟依存の町
が混在しています。
文京区を区全体で一括りにせず、町丁目ごとの市場の性格を見ること。それが、購入でも売却でも、判断の精度を上げる第一歩だと思います。
▼今回、本記事で扱わなかったこと
今回の分析は、町丁目ごとの市場の傾向をつかむためのものです。
そのため、以下のような物件ごとの個別事情は入れていません。
・住戸条件(階数・向き・眺望・室内リフォームの有無)
・価格履歴(値下げ回数・価格改定の幅)
・管理・修繕(管理状態・修繕積立金)
・競合環境(新築供給との競合・同一マンション内での住戸差)
次回以降は、こうした個別要因も加えながら、「なぜこの町では価格が通るのか」「なぜこの町では滞留しやすいのか」を、もう一段深く見ていきたいと思います。
▼本記事では参考扱いとした町丁目
以下の14町丁目は、件数または建物数の基準を満たさなかったため、参考扱いとしました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた!